LIAR(嘘つき)
作詞:白峰美津子、作曲:和泉一弥。
昭和を代表する歌姫として松田聖子と共に一世を風靡した中森明菜。
80年代最後で、平成の時代に突入したばかりの89年4月25日、明菜のアルバム「CRUISE」の先行シングルとして発売された。
この曲は、89年5月8日付でシングル「TATTOO」以来となる初登場・最高順位ともに1位を記録。だが、発売から僅か2ヶ月半後の 7月11日 (明菜の24歳の誕生日の2日前)に自殺未遂事件を起こし、その後およそ1年間歌手活動を休止することになる。
当時交際していた近藤真彦の六本木の自宅マンションで起きたショッキングなこの事件はよく覚えていたのだが、この曲については正直あまり記憶がなかった。
この曲をテレビで歌っていた期間は実質2ヶ月程度になるのだが、現在でも当時の動画を多数見ることが出来る。この曲はそのような背景を思いながら聞くと非常に興味深い。
無名の作詞家「白峰美津子」の歌詞が当時の明菜の心境を見事に代弁している。もしかして、明菜のペンネームだろうか…
「Platinaの月明かり こんな切なさを 夜更けのせいだと 思ってた」
「窓の隅 塗り替えた ビルが光るけど錆てく心は 変わらない」
帰ってくるはずの恋人がいない部屋で独り夜景を眺めながら、こんな心境だったのか…
「一つつく嘘で又 一つ嘘をつく勝手な人など ゆるせない」
タイトルの「LIAR」とこの歌詞が誰を意味しているかは当時の状況から明らか…
「ただ泣けばいいと 思う女と貴方には 見られたくないわ」
「もう貴方だけに 縛られないわ 蒼ざめた 孤独選んでも」
「次の朝は 一人目覚める それが 自由なのね」
クールに歌う中にも時折のぞく狂気にも似た激しさ…
平成時代の技術の進歩により、何十年も前の映像も手の取るように見ることができる。
当時は、ベストテン、トップテン、ヒットスタジオ等多くの歌番組があり、数多くの明菜を見てきたが、この曲の明菜が一番美しいように思える。失恋で傷ついた心が美しさに磨きを掛けるものなのだろうか?
また、明菜の表情は、番組によって、また曲の中でも微妙に異なっているように見える。
ある瞬間は、何かに怯えているような、何かに押し潰されそうになっているのを必死に耐えているような可憐な表情も垣間見える。
だが、憂いのある表情、虚ろな瞳は終始変わらない。
こんなに美しく切ない曲が70-80年代に他にあったろうか……
感情の激しい起伏を表しているかのようなヒステリックなまでに美しい高音のピアノの旋律・メロディと、タイトルのLIAR(嘘つき)とは真逆の明菜の真実の思いがストレートに伝わってくる歌詞が、明菜の美貌と相まって明菜の最高傑作を平成当初に既に世に送り出してくれていた。
なお、元々この曲が収録されていたアルバム「CRUISE」は、その後5度も再発売されている。それほどまでに明菜にとって思い入れの強い曲であり、明菜の執念のようなものを感じさせる。