「㐧二章・くちづけ」は、1980年10月25日に発売された柏原よしえの3枚目のシングル。
柏原よしえは、1979年(昭和54年)秋に日本テレビ系『スター誕生!』にて清水由貴子の「お元気ですか」を歌って合格。その後グランドチャンピオンになり、14歳(中学3年生)の時にシングル「No.1」でデビュー。なお、本名は「かしはら」と呼ぶ。
1980年デビューといえば、松田聖子や河合奈保子、岩崎良美などと同期。この中でも、柏原は人気番組『スター誕生!』のグランドチャンピオンであり、当時のキャッチフレーズ※から見ても、周囲の期待は高かった。このため、スタ誕先輩の桜田淳子や岩崎宏美のように、阿久悠プロデュースによる「アイドル育成計画」が練られていたように思われる。
※「ちょっと大物、夏ひとりじめ。よしえはNo.1。」
デビュー曲「No.1」(80年6月1日発売)、2ndシングル「毎日がバレンタイン」(同年9月5日発売)の作詞はいずれも阿久悠が担当し、いかにもアイドルらしいタイトルで、アイドル路線の滑り出しは順調。
だが、2ndシングルが発売された翌月の同年10月、すなわちデビューから僅か4か月後に、もうアイドル脱皮とも思える「㐧二章・くちづけ」が始まってしまう…
ちなみに、桜田淳子の場合、この「㐧二章・くちづけ」に対応するのは、出だしの「口づけ」の歌詞が印象的な「はじめての出来事」と思われるが、デビューから1年半以上も経った8枚目のシングルである。
アイドル歌手としてのイメージが定着する前の時期で、しかも、2ndシングルから僅か1か月足らずでの3rdシングル発売は、常軌を逸しているように思う。
これは、本楽曲がのど飴「コルゲンコーワトローチ」のCMソングに採用されたことに関係しているのかも知れない。
このCMでは、柏原よしえが左右の人差し指を合わせて「好~き♪好き・好き・好き・透きとおぉ~った時間のなか~で~」と本楽曲を歌い、トローチを持って「喉がスッとするから好き!コルゲントローチ」と宣伝するもので、当時テレビで何度も流れており、やたらと印象に残っている。また、この楽曲は、1980年デビュー新人賞レースの各音楽番組で披露されることも多かった。このためか、柏原よしえの初期の代表曲として、実際のオリコン順位※※よりも、ずっとヒットしていた印象が強い。
※※オリコンチャート最高49位、シングル売上数4.5万枚(1968-1997オリコンチャートブックによる)
作詞・作曲は、「時の過ぎゆくままに」・「勝手にしやがれ」・「サムライ」・「ダーリング」・「カサブランカ・ダンディ」等の70年代沢田研二の大ヒット曲を生み出した、阿久悠・大野克夫コンビが担当。この沢田研二の最強のコンビが80年代にアイドル歌手の楽曲も提供していたのはちょっと意外だったが、今聴いてもなかなかの名曲だと思う。
「好き 好き 好き 好き 透きとおった時間の中で
自然に流れて行くのが 好き 好き
ラジオのボリュウムを少ししぼって 夜の気配(けはい)を部屋に入れたの
私がもう少しポップであったら それで全(すべ)てがきまるでしょうが
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…
好き 好き 好き 好き 透きとおった時間の中で
自然に流れて行くのが 好き 好き
初めてこの部屋に入れたあなたは 少し緊張してたみたいね
いつもは悪ぶったこともいうのに いい子ぶったり それがカワユイ
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…
好き 好き 好き 好き 透きとおった世界を見つめ
やさしく揺られているのが 好き 好き
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…
How to love How to kiss 第二章 くちづけ アアア…」
歌詞については、彼を自分の部屋に初めて入れた後は、How to本で色々勉強した知識よりも、自然の流れのままに身を任せるのが良いという意味だと解釈。
その後、柏原よしえは、7枚目のシングル「ハロー・グッバイ」(81年10月発売、アグネス・チャンの75年シングル・B面のカバー曲、歌詞のモデルは南こうせつ実家の喫茶店)が約40万枚売上げてブレイクを果たす。翌年の82年10月には、シングル「花梨」(作詞作曲:谷村新司)の発売と同時に、本格的にアイドル脱皮宣言して本名と同じ柏原芳恵に改名。
当時の皇太子浩宮様も大ファン。その一方で、''仙台空港こけし事件''のような脱アイドルを裏付ける事件も…
さらに、「春なのに」(83年1月発売)、「カム・フラージユ」(83年12年発売)、「最愛」(84年9月発売)など、中島みゆきが書き下ろした作品を中心にヒットを重ね、80年代前半の間にトップ10入りした楽曲は何と18作品!いずれも「㐧二章・くちづけ」以降である。ちなみに、桜田淳子は「はじめての出来事」以降にトップ10入りした楽曲は13作品。
柏原よしえの場合、早めのアイドル脱皮計画が結果的には功を奏したようだ。