78年3月21日に発売された太田裕美の11枚目のシングル。
デビューシングル「雨だれ」(74年11月発売)から、4枚目の大ヒット曲「木綿のハンカチーフ」(75年12月発売)を含めて10枚目シングルまで、作詞松本隆・作曲筒美京平のコンビが続いたが、このシングルで初めて筒美京平以外の吉田拓郎が作曲を担当。
この曲は、主人公の女性が彼と待ち合わせた郊外の珈琲ハウスまでバスで向かう道中、「失恋魔術師」なる不可思議な人物に付き纏われながらも、なんとか彼と珈琲ハウスで落ち合うストーリー。
「木綿のハンカチーフ」と同様に、対話形式の物語風展開となっている。「木綿のハンカチーフ」は、恋人同士の対話形式だが、この曲は、失恋魔術師と彼女との対話形式である点で、「木綿のハンカチーフ」の変形バージョンとでも言えようか。
しかし、都会の「珈琲ショップ」ではなく、郊外の「珈琲ハウス」へバスで向かう場面設定や、失恋魔術師なる厄病神のようなキャラクター設定はなかなかユニーク!!流石は松本隆である。
作詞:松本隆
作曲:吉田拓郎
編曲:萩田光雄
「(1)バスは今 ひまわり畑を 横切って あなたの街へ
隣から だぶだぶ背広の 知らぬ人 声かけるのよ
お嬢さん 何処ゆくんだね 待ち人は来やしないのに
いえいえ 聞こえぬ振りをして 知らん顔して 無視してるのよ
その人の名は アー失恋魔術師 失恋魔術師
(2)バスを降り 夕映えの町 人波に 足を速める
追いてくる 足なが伯父さん ステッキを 招くよに振る
お嬢さん 逃げても無駄さ 不幸とは 追うものだから
いえいえ 後を向いちゃだめ 恋を失くすと 見かけるという
その人の名は アー失恋魔術師 失恋魔術師
(3)こみあった 珈琲ハウスに こわごわとあなたを探す
空の椅子 西陽が射す中 さよならを物語っている
お嬢さん 言ったじゃないか 愛なんて虚ろな夢さ
いえいえ 電車の遅れだわ あっちへ行って そばに来ないで
その人の名は アー失恋魔術師 失恋魔術師
(4)遅れたね ごめんごめんと 息をつき駆け寄るあなた
お嬢さん 私の負けさ また今度迎えに来るよ
いえいえ 死ぬまで逢わないわ おあいにくさま 恋は続くの
早く消えてね アー失恋魔術師 失恋魔術師」
歌詞は、「木綿のハンカチーフ」と同様、4番まであり、かなり長めである。
「何処ゆくんだね 待ち人は来やしないのに」
「逃げても無駄さ 不幸とは 追うものだから」
「言ったじゃないか 愛なんて虚ろな夢さ」
こんな悪魔のささやきのような歌詞にはメロディーを聴いていかにも吉田拓郎と分かるちょっと癖のある拓郎節が良く似合う。そう言えば、キャンディーズの「やさしい悪魔」も吉田拓郎の作曲だったな。。。
正統派の筒美京平作曲の木綿のハンカチーフには男女間の遠距離恋愛物語、ちょっと癖のある吉田拓郎にはユニークな失恋魔術物語、どちらも名作だが、木綿のハンカチーフとは違い、ハッピーエンドなところがホッとする。やはり、KANの曲のように「最後に愛は勝つ」と言うことか(笑)