YOSHIの青春歌謡曲!!

〜青春時代に聴いた宝物の再発見〜

〜キッズソングの裏に隠された大人へのメッセージソング?〜およげ!たいやきくん/子門真人(1975年12月)

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 「およげ!たいやきくん」は、フジテレビ系子供向け番組『ひらけ!ポンキッキ』のオリジナル曲として1975年12月25日にキャニオン・レコードから発売され、初登場から11週連続で1位を記録。トータル売上枚数は453.6万枚に達し、オリコン歴代シングル盤売上1位を誇る。

この曲を歌った子門真人はこれ程のメガヒットになると思わずレコード会社と買取契約を結んでしまったため、売上げに応じた歌唱印税は支払われず、僅か5万円の支払いにとどまったのは有名な話。

子門真人は、当時、特撮テレビドラマ『仮面ライダー』の主題歌や、SFアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』の主題歌など、幾多ものアニメソング・特撮ソングを歌い上げて、次々とヒットを飛ばしていた。「およげ!たいやきくん」も、アフロヘアーに丸メガネという出で立ちに似合わぬ、歯切れの良い二枚目的な声が印象に残っていたが、自分では単なる子供向けソングと思っており、歌謡曲とは見なしていなかった。※

むしろ、同時期にヒットしていた太田裕美木綿のハンカチーフ」が代表的な昭和歌謡として好きだったのだが、週間オリコンランキングで「およげ!たいやきくん」に勝てず、いつも2位止まりで悔しく思っていたことを覚えている。

当時は、消費税はまだ導入されておらず、代わりに物品税があって、生活必需品以外の贅沢品には5~30%税金が掛けられていた。「およげ!たいやきくん」が物品税法上、課税対象の歌謡曲扱いか、非課税の童謡扱いかで大騒動になったが、1976年2月に国税局により童謡であるとの正式判断が出されたため物品税は免除された。物品税上も歌謡曲では無かったことになる。

 さて、ここからが本題であるが、「およげ!たいやきくん」が、ここまで爆発的な大ヒットを飛ばしたのは、単なる子供向けソングや童謡ではなく、その子供たちの親の「団塊の世代」にも共感を呼んだことにあるようだ。「団塊の世代」とは、出生率が急上昇した第1次ベビーブームの昭和22年(1947年)~24年(1949年)生まれで、3年間の出生数は800万人を超えていた。「およげ!たいやきくん」がヒットした1976年当時、この世代は30歳手前で、日本の未来を支えるサラリーマンとしてモーレツに働かされていた。歌詞は、そんなサラリーマンの心境を代弁した内容にも読み取れる。

すなわち、「およげ!たいやきくん」は、発売当時、第2次ベビーブームの「団塊ジュニア」(1970~75年生まれ)の子供達だけでなく、その親の「団塊の世代」の大人にもメッセージを送っており、第1次ベビーブームと第2次ベビーブームの双方の大きな人口層に訴えたことが大ヒットの要因ではないだろうか。

作詞:高田ひろお   作曲:佐瀬寿一

「まいにち まいにち ぼくらは てっぱんのうえで やかれて いやになっちゃうよ→会社の歯車としての立場に嫌気がさすサラリーマンの心境
あるあさ ぼくは みせのおじさんと けんかして うみに にげこんだのさ→上司と喧嘩して会社を辞めてしまう
はじめて およいだ うみのそこ とっても きもちが いいもんだ→脱サラし、自分の力で自由に生きる生活を送る
おなかの アンコが おもいけど うみは ひろいぜ こころがはずむ→借金や養わなければならない家族の負担があるが、自由を謳歌する
ももいろサンゴが てをふって ぼくの およぎを ながめていたよ→飲み屋の女の子たちが新たな生き方を応援してくれる
まいにち まいにち たのしいことばかり なんぱせんが ぼくの すみかさ→会社務めでは味わえなかった楽しさがあるが、安アパートに住む
ときどき サメに いじめられるけど そんなときゃ そうさ にげるのさ→借金取りには逃げながら、処世術を身につける
いちにち およげば ハラペコさ めだまも クルクル まわっちゃう→ただし、生活していくのは簡単ではない
たまには エビでも くわなけりゃ しおみず ばかりじゃ ふやけてしまう→たまには良いものを食べないと体を壊してしまう
いわばの かげから くいつけば それは ちいさな つりばりだった→投資話のような罠に引っ掛かってしまう
どんなに どんなに もがいても ハリが のどから とれないよ→やはり、運命には逆らえない

はまべで みしらぬ おじさんが ぼくを つりあげ びっくりしてた

やっぱり ぼくは タイヤキさ すこし こげある タイヤキさ→所詮、会社組織の中でしか生きられない人間だと悟る
おじさん つばを のみこんで ぼくを うまそうに たべたのさ」→悲しい結末で終わり、現実の残酷さを痛感する

曲を 改めて聴いてみると、この悲しい結末を暗示するような哀愁漂う切ないイントロが心に染み入る。

たいやきは、あくまでも食べられてしまうもので、結局、たいやき以外の何者にもなり得ない。主人公も、所詮、サラリーマンとしてしか生きてゆけないということなのか…

当時は今とは異なり、終身雇用が当たり前の時代。サラリーマンにとって「会社」は「寄らば大樹の陰」で居心地の良い場所。食べられる、という悲しい結末も、脱サラしても無理、会社の中でしか生きられない、という現実の厳しさを教えていたのだろうか。

サラリーマンの悲哀、人生の悲哀を感じさせる、実に深みのある歌といえる。 


子門真人「およげ!たいやきくん」

 なお、「およげ!たいやきくん」のアンサーソングとして、山本リンダによる「私の恋人、たいやきくん!」(作詞:中山大三郎 作曲:穂口雄右 編曲:あかのたちお)も発売されている。

下の動画は、「およげ!たいやきくん」を歌い終えた子門真人とのツーショット映像である。

歌詞は、海に飛び出したたいやき君を追って、恋人のたいやきさんが海に出ていくという展開から始まる。最後は、しっぽが切れてしまって結局たいやき君に会えないたいやきさんが、たいやき君の末路を知って「おじさん私もすぐに食べてよ。お腹の中で会えるから」という、こちらも哀しく切ない結末である。


山本リンダ「私の恋人、たいやきくん!」